たけのこのタイタン

アクセスカウンタ

zoom RSS マイコンEX-80

<<   作成日時 : 2010/06/06 04:25   >>

トラックバック 0 / コメント 0

東京理科大学に併設の近代科学資料館「パソコンの歴史展」を見に行った。

そろばんや計算尺に始まり、産業革命時代の計算機械、初期の電卓が展示される中、お目当ては"マイコン"だった。パラメトロン使用のFACOMや電卓のコレクションが凄い。タイガー計算機等の手動計算機、「答え一発」のカシオ、キヤノンの初期の電卓、なつかしのプログラム電卓がいっぱい。真空管の展示もあった。そして、懐かしのPET-2001、AppleII、TRS-80に並んで、PC-8001、ベーシックマスター(デザイン一番カッコいい!)、FM-8、MZ(はあった? スマン) どれもスペースバーが長いのにキュンときちゃう。

釘付けになったのは、PC-8001の前世代であるTK-80(NEC)、Lkit-16(パナファコム)、HR68(日立)等の黎明期のワンボードマイコン。基本、全部の部品をハンダ付けして組み立てる。LSIも足の数だけつけるのだ。70年代の終わり、BCL,アマチュア無線に並んでホビーの代表はマイコンだった。インテル8080の他、モトローラMC6800、MOSテクノロジー6502、ザイログZ80、RCA COSMAC等の8bitCPUが全盛の時代。それぞれ、豊富なaddressing mode、zero pageモード、ブロック転送命令、桁違いの低電力CMOSで68000に通じる直交アーキが印象深い。


今回、触れておきたいのは、かつて持っていた東芝EX-80のこと。残念ながらここの展示にはなく、ネット上でもかつてのオーナーが多いTK-80程には情報が出てこない。EX-80にもよい点がたくさん。それを書き記しておきたいと思った。

EX-80の特徴は、(括弧はTK80比の優劣)
 ・CPU 8080A(2MHz)、ROM 2kByte、RAM 1kByte
     (○、RAM 2kBまで増設可能)
 ・RAM 2114のバックアップは不可
     (×、TKは可能でCMOSの5101)
 ・ユニバーサル基板領域はなし(×、TKはあり)
 ・電源+5V、+12V、-5V
     (×、TKは -5Vを半波倍電圧整流で作るので不要)
 ・16進入力キー、
 ・7セグメントLED8桁表示
 ・カセットI/F搭載(USART 8251、300baud)(○)
 ・TV出力I/Fつき、モノクロ10桁x20行(だった?)
     (キャラクタ/Bitモード切替)、RFモジュレータ搭載 (○)
 ・逆アセンブラ内蔵モニタ機能(○)

LEDとTV出力はDMAで、カンザスシティスタンダード方式のシリアルはUSARTで、それぞれHW的に処理。ROMモニタに逆アセンブラがあり、現在実行中の命令(ニーモニック表示)とともにPC,スタックや各レジスタの内容がTV画面上に出せる。ステップ実行でレジスタ値が変わるのが一目瞭然でマイコンの理解が進む。表示はモノクロ、下地は白で、
    8200 3E 01
    MVI A,01H
のように(横長文字だが)出た。その下には各レジスタの値も。音はPPI 8255の1bit PCMだけどRF経由で鳴らせた。writeキーで1byte入力するとピッと鳴く。表示はトグルSWでbitモードにすると、各バイトの8bitパターンがそのまま白黒でビットマップ表示ができた。

NECに遅れたものの、TK-80BS対抗で別売の完成品ボードを増設して、EX-80BS(Level1 BASIC相当が動作、QWERTYキーボード付、モノクロ40桁x25行表示)となり、後に別料金のROM提供でLevel2 BASICもサポート。浮動小数点演算やsin等の初等関数、文字列操作が可能に。かなり遅くてsin(1)計算に1秒くらいかかったかナ。

キットらしく教育的な面が充実。マニュアルは厚さ1cm位。記憶は薄れてるが、和文タイプの2冊? ハンダ付けの仕方や電子部品の役割が載ってた。8080/8224/8228の各LSIの役割も書いてあった(Intelじゃなく東芝2ndソースの品番TMP9080APとかだけど)。メモリ、8255等のデータシートもしっかり記載。PPIのCポートは上下4bit群ごとに入出力の方向が指定可能、なんてのもこれで知った。当時は常識の回路図全公開。バス表記でなく全ビット配線が独立して書いてあり、ボロボロになるまで見返した。PullUP/DOWNや負論理回路の実際を知ったのもこれが始めてと思う。確かマシン語の「通り抜けゲーム」「五目並べ」、音楽の自動演奏やBASICでは定番の「スタートレック」も載ってた気がする。

ROMモニタは、メモリR/Wから逆アセンブラまで全ソースが公開され、プログラミングのよきお手本になった。どうやってコンピュータは動作するのか。リセットで0番地からcold startしてワークを初期化、キーボードマトリクススキャン(チャタリング回避も)して、portを0/1トグルで音を鳴らし…。ROMの残バイトは16Byteもなかったと思う。よく逆アセンブラを乗せられたものだ。4kByteのLevel1 BASICになっても、ソースを読むことでインタプリタの仕組みがよく理解できた。整数変数の範囲がなぜ-32768〜32767なのか、prin. 等の「.記述」でキーワード短縮できる仕組み、キーボード割込みでキーコードを取り込む手法、Level2 BASICでは中間言語でキーワード管理する仕組み、FACライブラリへ引数を渡すサブルーチンの使用方法…。どれも勉強になった。

1秒より短い時間の感覚もこのときの体験が基礎となっている。EX-80では1命令が最短で4マシンサイクルだから約2us。つまり0.5MIPS。TVの水平同期の周期は63.5us、メモリのアクセス時間は数100nsのオーダー。1kHzの音のサイクルは1ms。ナノ、マイクロ、ミリ秒の世界を自然と経験できた。


こどもの私は廉価版のEX-80A(セラミックパッケージじゃないプラ版8080等を使用)を買ってもらい、自分でハンダ付けして組み立てた。はじめ動かず、近所の東芝の店主にイモハンダで見てもらい…<お世話になりました _o_
思えば親もよくガキに買い与えたものだと思う。でも、これほど夢中になれた時期はなかった。

自作の1bitPCM録音/再生プログラムにnopをかまして音程を変えて"プチEmulator"。インタプリタもどきを作って集計プログラムやバブルソートを動かした。データ量が少なくできるベクタ方式の描画ルーチン作ったし、公開された他人のマシン語を見て、XRAで0クリア一発、PUSH連発で超高速画面クリア、実行時にRAM上の命令を書換えて処理を強制改変、フィールド時間単位のduty制御で中間色表示を実現、短時間で単音を切替える和音の作り方等のテクに驚いた。雑誌「RAM」に載ったlispインタプリタを動かしたし、π100桁を数時間かけて計算もさせた(今や100万桁が12秒だ)。学校の休み時間にノートにマシン語を書いて、脳内デバッグして…。PSG AY-3-8910を繋ごうだとかメモリ増設ボードを作るとか計画するも頓挫。そして、熱暴走を避けるため水を含ませた脱脂綿を8080に乗せつつ、AMラジオの雑音のループ具合でデバッグしたのは遠い昔の思い出。

それに、アドレス、ロード、セーブ、イネーブル、ストローブ、インヒビット、インクリメント/デクリメント、インタラプト、インタプリタ、スタック、パリティ、アセンブラ、プロンプト、デリート、インサートなどのカタカナ語。どれも英単語の普通の意味は、後に知ることに。


アルゴリズムが何たるかをまだ知らない。でも、何でもできそうな気がしたんだ。マイコンは指示さえ正しければ、何度も間違うことなく目も止まらぬ速さで(少なくとも当時は)処理してくれる自分の分身。プログラムできるということは理解できたという証。音だって絵だって出せる。カナだけど文章だって編集できる。可能性に気づいてそれを実現、発展させた人たちがいた。今のパソコン文化があるのは、マイコンキットがこんな人たちに「できるかもしれない」と想像する力を与えた結果と思う。こういうのを”夢”というんだろうな。


EX-80後の東芝だが、PC-8001の隆盛を受けて、完成品のPASOPIAで参入するもマイナー機種にとどまり、MSXへ展開後もついに日の目をみず、コンシューマ向け8bit機市場から撤退の道をたどる。その市場も、やがて、ワープロを筆頭とするビジネス用途アプリが余裕でこなせる16bit機が普及、8bit黄金時代は終わりを告げる。東芝が、ブック型PC Dynabookで復活するのはそれからのことである。


私のEX-80は、手元にはもうない。狭くなった部屋の整理で何年分ものトラ技とともに処分してしまった。残ったのは、当時使っていた電源と部品の一部、導通確認に使ったYEWのテスターと、ニッパで切断した部品の足のリード線が何百本。そして本が何冊か。大切に残しておこうと思う。


冒頭に触れた「パソコンの歴史展」は 2010年7月3日まで。入館無料。展示物の写真撮影は不可だが、当時の空気を吸ってた人には、かつての気持ちに再会できる絶好の機会になること間違いなし。

閉館時間になり、私は資料館を出た。そばを闊歩する学生さんたちの今の時間をうらやましく思いつつ、HALの歌を思い出しながら帰路についた。


---------


画像


当時のキットで使用のICたち。今見たら8251はNEC品?!(乗せ変えた記憶はないんだが)。8255と他社の2114はパーツ屋で買ったもの。


画像


コレクションのCPU Z80。DRAMコントローラ内蔵と裏レジスタが特徴。モトローラMC6847、MC1372はVDG(コンパチ品がパピコンPC-6001に使われてる)。カラー表示を出そうと買ったけど放置状態。いつか作るよぉ…


画像


読んでた解説書「マイコン入門講座」(1980年)。論理回路、TTL/CMOSの基礎、8085命令説明、TK-80の全回路図を記載。


画像


画像を追加しました:
某所で見かけたEX-80。セラミックパッケージ版のオリジナル品。まっとうに教育用に使われていた様子。
なお、EX-80にも、当時COMPOBS/80のような格納ケースがあったそうです(販促用かもしれないけど)


月別リンク

マイコンEX-80 たけのこのタイタン/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる